抽出

05 June, 2024
先日、空気の濁った電車の中をじっと耐えていた時の出来事である。
私の少し後方に、ひとりの女子高生がいた。その子は、一人でいたため、黙々としていることには何の違和感も抱かない。
しかし、私がその女子高生の存在に気が付いて数秒後、友人らしき、同じ制服を纏った二人の女子高生が、隣の車両からやって来る。
その子が二人を目に留めた瞬間、放出される笑顔と共に、明らかに、その周囲の空気も変化していた。女の子を取り囲む灰色をした空気の塊が、一瞬にして微細な粒へと変容したような、静かに、強烈な爆発が生じていた。
全く知らない、日々すれ違う多くの他人の一人である彼女の、沈黙から視線を背けたあの瞬間が、私にとっては遥かに遠いものであり、柔らかい両手で突き放される。ごくあり触れた偶然であるのかも知れないが、彼女が私とはずっと遠い世界で生きているということに、その事実に、とても安心できた。

この安心は、はっきりとかたちを持ったものではなかったが、夜になって、私が私と同じような世界で生きている人間ばかりを探しているわけではなかったこと、そして何より、固く張り詰めていたように見えたその肌が、柔く皺をつくったことが温もりを生み出したのではないかと睡気の中で思っている。

(4月23日の日記より)
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